地殻の安定性評価
層序の詳細検討
重要施設等の安定性評価を行う上で、将来予想としての地殻変動の影響評価が必要です。特に若い地質時代である第四紀がどのような地殻変動傾向にあるのかを調べることは、ローカルな地殻変動を知る上で重要となる検討項目の一つです。当然、活断層などの活構造の影響を判断する上でも無視できない場合があります。しかしながら、対象となる第四紀層の層序は、最新の解析・分析手法を用いた層序学的な検討がされていないことがあります。
堆積学や古生物学を中心とした詳細な堆積環境の検討、テフラを含む堆積年代を総合的に矛盾なく理解できるような調査やサポートが可能です。
☞よくある問題
- 過去の研究事例と層序と合致しない
- 堆積環境がわからない
- 不整合面がわからない
「過去の研究事例と層序が合致しない」という問題がしばしば発生します。第四紀層序は、様々な分野の複合的な解釈が必要となります。特に海水準変動と個別の堆積相との関連性を含めた層序解釈は、少なくとも1990年以前の情報を使用するのは難しいと思われます。現世堆積物やイベント性堆積物を含めた堆積相の精度の高い理解が必要です。堆積相のパーツは、1つの露頭観察や写真から判別可能なものもあります。しかし、例えば同じ「干潟堆積物」であっても、河口干潟のようなものなのか、バリアーを伴う地形の背後的なものなのかは、広域的な調査を行わないとわからないことがあります。
「堆積環境がわからない」と、そもそもいつの時代の堆積面に対応する地層なのかを検討する上で大きな妨げとなります。地層によっては、明確な環境を示す証拠を見出すことができない場合もあります。例えば、文献では貝化石を含む海成層となっていても、第四紀の露頭の場合は、貝殻が溶脱してしまうと、モールドも残らない事が多いため、他の証拠に頼らざるを得ません。例えばの写真では、貝殻の溶け跡がわずかに残されていますが、反面、生痕化石は無数に観察されますし、堆積構造は確認できます。生痕化石の一部は海の証拠として有益な情報をもたらします。堆積構造の中にも海の中で形成されやすいものなどがあります。抽出可能な証拠を積み上げることで層序につながる堆積環境情報を導き出すことができます。
「不整合面がわからない」ということは層序誤認の大きな問題点の一つです。数万年〜数十万年のタイムギャップを数10万年後に見ていることになるわけですから、何千万年もギャップを持つ不整合面と同様に識別することができないのは当然です。一方で、短いタイムスパンの不整合認定こそが第四紀層序の鍵となります。異なる時代の同様の堆積環境を示す地層が塁重しているケースもあります。堆積年代のギャップを示す証拠としてテフラ層序、生痕化石の古固結度を用いる方法などで解決することがあります。
旧汀線高度の判定
地殻変動評価において唯一不動点的な扱いがしやすいのは、海進ピーク期の海成層上限となる旧汀線高度です。従って、旧汀線の判定は最も重要な作業の一つです。
海成層の決定的な証拠は、基本的には「化石」に頼らざるを得ません。貝類などの大型化石、有孔虫や珪藻などの微化石、生痕化石などの証拠を用いて、より確度の高い海成層の根拠を示します。更に、堆積相を含めた地層解析によって、旧汀線高度の推定誤差を最小限となるように導き出します。
☞よくある問題
海成段丘と判断される地形があっても、それが海成層の堆積面を示すものとは限りません。厳密には海成層を見出し、その中から更に海進ピーク期となる層を識別し、その標高を抑えることで初めて旧汀線高度が推定できます。まずは、海成層の証拠が明確にされているか?という点をクリアしておくことが大前提となります。
地殻変動傾向の検討
上記のように、全体層序やパーツとなる地層の堆積環境の詳細検討により、全体の堆積システムを考慮した上で、最も合理的な解釈が可能な地殻変動傾向の検討を行います。
地殻変動は地域ごとに大きく異なっています。海水準変動・旧汀線高度・年代値などが整理できた上で地殻変動傾向を推定していきます。しばしば模範的な場所との比較がなされていることがありますが、模範的な場所であっても、テクトニックな影響を無視できるものではなかったり、旧汀線高度の評価自体も曖昧だったりするケースが実は多いのです。もちろん、参考にはなりますが、ローカルな構造運動を把握してその場所に見合った評価を行わなければ、あまり意味を持たない事になりかねません。