津波堆積物調査

津波堆積物が見られる露頭
津波堆積物

津波堆積物調査法

ある特定の津波堆積物の調査, もしくは未知の 津波堆積物調査においては, 調査場所の選定, その場所に見合った調査手法の決定が重要です。

調査法の決定はその成果を大きく左右するものですし, もっとも費用のかかる部分なので、より対費用効果の高い調査法をご提案させて頂きます。

地層採取・地層観察手法

実際の調査法としては、定方位連続地層採集調査や、トレンチ・ピット掘り、ボーリング調査、ピストンコアリング調査などが用いられます。津波が到達している場所であっても津波堆積物が残されているとは限りません。予備調査によって分布予測を行い本調査に繋げるというやり方が、対費用効果は最も高いと考えられます。

調査場所の選定法

津波堆積物が残されやすい地形を狙った調査を行うというのは当たり前のことです。しかし、津波が到達しているところであっても津波堆積物が必ず残されるわけではありません。また、津波堆積物があったとしてもそれを識別可能かどうかという問題があります。そうした調査効率・実際に可能な調査手法(機材搬入等も含めて)のご提案が可能です。

津波堆積物の識別・抽出

津波堆積物は, 特定の特徴があるものではありません。 堆積場によって様々なバリエーションが存在します。 そのため, 通常の堆積環境下での堆積物を熟知した上で, それ以外のイベント性の堆積物を抽出し, 津波堆積物を識別していくことが必要です。

これまでに, 数多くの現世堆積物調査 ・ 露頭調査等を行ってきた経験から, 様々なバリエーションの堆積相を 観察しています。 そのため, 津波堆積物 の識別をより確実に実施 することが可能です。

また, 必要に応じて, 微化石, 化学分析 などのご提案 ・ 実施 ・ 総合的な解釈を行います。

津波堆積物の決定的な特徴とは?

津波堆積物の決定的な特徴は、はっきりいうとありません。「これがあったから津波だ!」などと端的に決められる特徴は無いといって良いでしょう。簡単に言うならば、「静穏時の堆積物と異なること」が最も大きな決め手となります。もちろん、津波以外のイベント性の堆積物であっても、静穏時の堆積物と異なっていますし、そもそも、静穏時の堆積物というものが実際に静穏な時に堆積しているか?というと、そうではありません。静穏時の堆積物とは、「静穏なエネルギー条件下で堆積している」ものであって、常にそういった堆積作用が起きているというものではありません。

津波堆積物を決定付けるためには、最も容易な決め手が、「化石」だと思われます。場所によっては、礫の特徴、化学組成などで決めやすいこともありますが、単純に「深い海底にしかいないはずの生物遺骸が、陸上に打ち上げられており、その層がずっと連続している。」といった特徴を持つ堆積物であれば、極めて高い確率で津波堆積物であると断定できます。

「津波の際は非常に高いエネルギーでものが運搬されるため、津波堆積物はすごい層厚を持った高エネルギーを特徴付ける堆積構造からなる」ということはありません。もちろん、そのような堆積物も存在します。しかし、そもそも高いエネルギー条件では巨礫でも無い限り、そこは堆積の場ではなく、侵食の場となります。高いエネルギーというよりは、「変なエネルギー」で堆積したものが多い印象です。例えば、潮位差が殆ど無いような河口域なのに、上流側に向かって遡上しているような方向の堆積構造が見られるとか、通常は潮汐卓越な干潟なのに関わらず高波浪時の堆積物が残されている、とか。もっと単純な例としたら、泥しか貯まるはずのないような湿地に砂が堆積しているなど。もちろん、このような層相のみでは津波を特徴づけることはできません。海からしか運搬されてこないであろう証拠や、前後の層相、連続性などを調べていく必要があります。

津波災害履歴の検討

津波災害履歴 の検討では, 古文書等の記録に加えて, 堆積物中から見出される 津波堆積物 を合わせて評価する 必要があります。 しかし, 江戸の初期以前は, 古文書記録が著しく減少するため, 堆積物調査 に頼らざるを得ないことが多々あります。 特にローカルな津波(局所的な海底活断層, 火山活動 , 海底地滑り等に伴う) は十分な調査が行われていないケースが多くあります。

防災 ・ 減災の検討の必要性が高い地域( 人口密集地 ・ 重要施設 )では更なる調査が必要な場所がまだまだ 沢山存在していると思います。

海溝型地震に伴う津波が発生しやすい地域については、その周期性が捉えやすかったりするために、調査・研究自体も比較的進んでいます。しかし、海底活断層に伴うローカルな地滑りに伴う津波などは、被害想定エリアも局所的になるため、その過去の証拠を得ることは困難なケースが多く、実際、研究事例もあまり多くありません。しかし、有史時代においても、こうした海底地滑りに伴って発生した津波はいくつか知られています。このような場所では、海溝型地震に伴う津波堆積物調査とは全然異なる手法を取る必要があります。

このように、様々なケースに合わせた津波災害履歴の検討は、防災上非常に大きなものなので、まだまだ必要性の高いものであると思われます。