堆積環境の推定
簡単に言うならば、地層や堆積物がどのようなところで溜まったものなのかを示す条件のことです。地層・堆積物は、その場所の地形や背後の地質などの条件、泥や砂や礫などが運搬されたりする物理条件、化学的な条件、生物的な条件など様々な要素があります。例えば、「海」で堆積するとしても、波浪や潮流などの物理条件は、地形、水深など様々な環境の違いがあります。また、気候条件などの違いは生物・化学的条件の差を生むため、様々なバリエーションがあります。地層や堆積物の詳細な観察、分析・解析によって、その条件である堆積環境を知ることができます。
地層が形成されていく過程で堆積している環境も変化していきます。それは連続的な環境変化ではありませんが、断片的に残さてている地層中の環境情報を読み取ることによって、環境変化の傾向を読み取っていくことができます。過去において海面が上昇したり低下したりする大きな環境変化も地層中に残された記録を見ることでわかっています。逆に、地層の詳細観察抜きでは、海面の上昇や低下といった大きな環境変動のどのような場面で形成された地層なのかを知ることは困難です。
海水準変動は、海洋生物化石の殻に残されている酸素同位体比の変化と深く関係しています。浅海〜沿岸域における堆積作用は、僅かな水深変化の影響を大きく受けます。海水準変動もそうですが、ローカルな地殻変動にも大きく関与しています。
上述したとおり、堆積物や地層中に見られる堆積構造等を直接観察することがスタートです。地層・堆積物の観察には、露頭、トレンチ、ボーリングコア、その他の地層試料を対象とします。代表的な堆積構造は、実験的に形成条件が知られていたり、現在どのような場所で形成されているか等が知られています。堆積環境の違いによって様々な特徴を有する地層の構造を詳細に観察し、どのような環境で形成されたものに近いかを推定していきます。地層はできる限り直接観察することが望ましいですが、事情により、地層の写真や柱状図等しかない場合であっても、解析が可能な場合はあります。
堆積環境の推定には、堆積物や地層に含まれる化石も重要になります。例えば、内湾の干潟環境を好む種類の二枚貝が多く産出する場合は、 単純に内湾干潟環境下での堆積物である可能性が高まります。堆積構造等と合わせて検討して矛盾がないようであれば、ほぼ間違いなく干潟堆積物であると決定することができます。
堆積環境の推定が必要となる場面は、堆積物や堆積岩が対象となる場合であれば、必ずと言っていいほど存在します。
・遺跡調査では、遺跡の成立前後の地形を含む自然環境とその変遷を知ることは大変重要なポイントとなります。
・重要施設における長期的地殻の安定性評価を行う上で、その地域のローカルなテクトニクスに関する情報を得るためには、地層の堆積環境をより詳細に把握する必要があります。
・干潟を含む沿岸域の環境悪化は、水産資源の漁獲量に反映されます。近い過去からの環境変化傾向を知るためには、その場所での堆積環境変化を調べることは重要になります。生物の生息環境に大きく影響を与えます。
・海岸侵食や堆砂などの問題は、堆積条件がダイレクトに反映されています。問題の解決には、静穏時・暴波時それぞれの堆積メカニズムを知る必要があります。
・活断層の評価を行う上で必要となる地層の変位を正確に把握するために必要となるケースが多々あります。
・過去の津波履歴を調べるには、地層の堆積環境調査そのものが基礎データとして必要になります。
・過去の洪水履歴も堆積物の調査から知ることができます。これも津波履歴同様に、地層の堆積環境調査が基礎データとして必要になります。